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認知症の超早期診断 第72回 「前向き」な人生サポート 脳フィットネスで鍛える

掲載日:2024年3月27日更新
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認知症の超早期診断 第72回
「前向き」な人生サポート 脳フィットネスで鍛える

量子科学技術研究開発機構(QST)が取り組む「認知症早期診断」達成の先にある、高齢者が「老い」や「死」を意識する状況下においては、特にQOL(生活の質)が重要となってくる。

人生最後の瞬間までよりよく生きるには何が必要かという課題解決のために、QSTでは、科学技術振興機構(JST)が推進するムーンショット目標9「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会の実現」の中で、「逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現」を目指した科学技術開発を展開する。科学的根拠に基づき「前向き」を読み取り、個人のニーズに合わせた「前向き」をサポートする「人々が主体的・自発的に生きていくための技術」を社会に届けるための取組みである。

「前向き」とは、「現状を絶えず乗り越えてゆく」こころの本質であり、「逆境の中で前を向こうとする姿勢」と捉えることができる。そもそも、人間の「こころ」は、それ単独の存在ではなく、環境との相互作用によって生み出される。人間は、身体を介した環境とのやりとりを通じて生きていることから、必然的に「こころ」と身体は密接に関連している。

「前を向く」という表現は、文字通り「身体が前を向く」だけではなく、「こころが前を向く」という意味でも用いられる。QSTでは、QSTが誇る分子-回路ー全脳までカバーする脳画像技術と微細な身体の動きを捉えるバイオメカニクス技術を駆使し、「こころ」と身体が一体になった「前向き」を読み取る技術の開発に取り組んでいる。

さらに、脳の働きをピンポイントに調整する最先端技術を用いて「前向き」を駆使しやすくするアシスト技術、日々の身体トレーニングで「前向き」を鍛えることでできる脳フィットネス技術を展開していく予定である。

「前向き」の科学技術開発と並行して、論理的・法的・社会的(ELSI)な論点の整理も社会実装においては重要である。ピンチをチャンスに変えるなどの逆境への立ち向かい方、そして人生最後に直面する死が迫ったときの心の支え、文化的スティグマ(偏見)や死生観などを含めて、人生・社会における「前向き」の在り方、その支援の在り方についての社会的議論が喚起・深化されることで、今後、「前向き」の科学技術と社会全般が醸成されていくことを期待している。

「前向き」を読み取り、促す技術の開発

「逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現」に向けた科学技術の開発

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所

脳機能イメージング研究部 上席研究員

女性の顔

山田 真希子(やまだ・まきこ)

京都大学、シカゴ大学を経て放射線医学総合研究所(現QST)に赴任。ムーンショット目標9のプロジェクトマネージャー(PM)として「前向き」の科学技術開発を推進している。博士(人間・環境学)

本記事は、日刊工業新聞 2022年11月24日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(71)認知症の超早期診断(連載記事 全8)​「前向き」な人生サポート 脳フィットネスで鍛える(2022年11月24日 科学技術・大学)