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認知症の超早期診断 第73回 PETで脳機能可視化 認知症患者の困りごと代弁

掲載日:2024年3月27日更新
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認知症の超早期診断 第73回
PETで脳機能可視化 認知症患者の困りごと代弁

困っている人を見ると助けたいと思い、困っている事が分かれば、何とかする手立てを考える。しかし、何に困っているのかが分からない、困っているかどうかも分からないと、医療さえ患者さんに届かないことがある。特に、認知症など、高次脳機能に関連する病態がある場合、本人自身では症状の説明が難しいことが多く、困っている内容を周囲に伝えることも難しい。

陽電子(ポジトロン)断層撮像(PET)は、患者さんが困っている症状を代弁するポテンシャルを持つ。脳細胞の唯一のエネルギー源がブドウ糖であることから、ブドウ糖類似体を陽電子放出核種(18F)で結合した薬剤の脳内分布によって、脳機能を可視化することができる。これまでの多くの脳研究のおかげで、脳のどの部位が、どのような機能を担っているか、さらに、代表的な認知症における脳機能低下が、どのようなパターンを巡るのか分かってきた。

PETで脳機能を可視化できると、患者さんがどのような症状を抱え、どのような経過をたどるのか予測できつつある。

そして、より詳細な領域を可視化できれば、より詳細に病態と症状を理解できる。患者さんの病態と症状を的確に捉えることを目標に、量子科学技術研究開発機構(QST)ではPETの高精度化を目指してきた。

最新の成果であるヘルメット型PETでは、脳の深いところにある神経核のブドウ糖代謝の可視化に成功した。このような神経核はドーパミンやセロトニンといった神経細胞の情報伝達に必要な成分を合成し、多くの脳領域と連絡を取り合い、さまざまな機能を調節する。

神経核の機能を評価できれば、これまで分からなかった高次脳機能の異変にも、より正確にアプローチすることが可能となる。また、アルツハイマー型認知症など神経変性疾患においても、関連する異常たんぱくの蓄積が、いつ、どの部位で始まるのかといった、超早期像を捉えることも可能になり、脳機能低下や症状が出現する前に病態を知り、治療加入することも現実のものとなる。

助け合う社会から、さらにその先を見据え、さまざまな側面から脳機能を理解し、より良い健康な暮らしを支えるための科学技術を目指し、本連載で綴られてきたように、QSTでは第一線の研究者が日々、一丸となって研究や技術開発に邁進している。

ヘルメット型PET装置と脳のPET画像

「見えなかった」を「見える」に

 

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所

先進核医学基盤研究部 主幹研究員

女性の顔

 

高橋 美和子(たかはし・みわこ)

2008年に東京大学大学院核医学において、てんかん脳の研究により博士号(医学)を取得、同年より同附属病院助教、2014年より講師として核医学診療に従事。2018年よりQSTイメージング物理研究グループ主幹研究員として物理工学から医学を革新すべく、核医学を中心とした研究に従事している。

 

本記事は、日刊工業新聞 2022年12月1日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(73)認知症の超早期診断(連載記事 全8)​「PETで脳機能可視化 認知症患者の困りごと代弁」2022年12月1日 科学技術・大学)