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量子医科学研究所

標的アイソトープ治療 第45回 悪性褐色細胞腫治療の最大化へ

掲載日:2024年3月27日更新
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量子科学技術で作る未来 第45回
希少疾患の根治治療に期待

がんに放射線をあて、細胞の増殖を抑えたり、死滅させたりする治療法を放射線治療という。放射線治療というと体の外から放射線をあてる外照射を指すことが多いが、標的アイソトープ治療は、放射線を出す薬を投与し、体の内でがんに放射線を照射する治療である。

標的アイソトープ治療で使う薬は、放射線を放つ部位(放射線同位体)とがん細胞に結合する部位(ドラッグデリバリー)で構成されることから、薬の体内循環により、散在するがんの照射が可能であり、近年導入されたアルファ線放出薬剤では体内に潜んでいる転移性のがん細胞を完全に死滅させるような大きな効果も期待できる。

副腎皮質由来の神経内分泌腫瘍の一つ、悪性褐色細胞腫は、外科手術など既存の治療法では根治が非常に難しい稀少疾患である。

量子科学技術研究開発機構(QST)は、この悪性褐色細胞腫の治療のため、放射線の中でも細胞殺傷能力の高いアルファ線を放つアスタチン211(211At)にドラッグデリバリー機能を備えた211At標識メタアスタトベンジルグアニジン(MABG)を開発し、悪性褐色細胞腫に対する有効性を明らかにした。

その効果は、悪性褐色細胞腫のモデルマウスにおいて腫瘍サイズを大幅に縮小(図)すると共に、約1か月にわたり、細胞の増殖を抑制するに至った。安全性についても、想定外の副作用が見られなかったことから、現在、臨床応用の早期実現に向けた準備が関係機関により進められている。

続いて、我々は、MABGによる治療効果の最大化を目指し、患者間で治療効果が異なるという課題解決に向け、研究を開始している。治療の有効性を事前に見極め、治療効果を最大化するためには、MABGに対するがんの応答を分子レベルで調べ、治療効果誘導の鍵となる分子を特定する必要がある。これまで、MABG処置に対して特異的に応答するがん細胞の4遺伝子を発見(図)しており、これらの遺伝子の応答を手掛かりに、引き続き、がん治療効果の予測と向上に役立つ指標(バイオマーカー)の特定を進め、MABGによる治療効果の最大化を目指す。

211At-MABGを治療効果をマウスで比較した結果とMABG処置に応答する4つの遺伝子

執筆者

量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所

放射線生物応用研究部 部長

 

女性の顔

石岡 典子(いしおか・のりこ)

がんの診断・治療に役立つ放射性同位体の製造および薬剤化に関する研究に従事。博士(工学)

本記事は、日刊工業新聞 2022年4月7日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(45)悪性褐色細胞治療の最大化(2022年4月7日 科学技術・大学)