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放射線医学研究所

放射線の測定方法(放射線全般に関するQ&A)

掲載日:2024年3月27日更新
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  1. 個人で放射線量を測りたいのですが、測定器の種類によって違いはありますか?
  2. ホールボディ・カウンタを使うと、何がわかるのですか?
  3. 土壌や農林水産物等の環境試料中のプルトニウムはどのように測定するのですか?
  4. ストロンチウム90はどのように測定するのですか?
  5. ストロンチウム90をすぐに測定できると聞きました。これまでの方法とどう違うのですか?

 
Q.個人で放射線量を測りたいのですが、測定器の種類によって違いはありますか?

A.正確に放射線量を測定するには用途に合った測定器を使用する必要があります。家の中や庭など身の回りの放射線量を測定したい場合、エネルギー補償型シンチレーション式測定器が信頼できます。

放射線量を測る測定器(線量計)には、表面汚染を検査するGM計数管、高い線量率*を測定する電離箱、低い線量率を測定するシンチレーション検出器などがあり、測定用途によって使い分けます。

一般に線量計は、セシウム137からのガンマ線により校正**しています。簡易線量計に多いGM型の測定器は、セシウム137のガンマ線より低いエネルギーに対して高めの値を表示する傾向があり、正確に測定できないことがあります。場所による線量率の大小を比較するおおよその目安程度に考えてください。この線量計はベータ線に対する感度が高いために、ベータ線放出核種による表面汚染の検出に優れています。電離箱式の線量計は正確ですが、私たちの身の回りの放射線量を測定時には感度がやや低くなります。現在問題になっている放射性セシウムによるガンマ線を計測するには、エネルギー補償機能***の付いたシンチレーション式の測定器が最も適しています。

 

*線量率:ある一定時間あたりの放射線量

**校正:測定器の狂いや精度を、放射線量が正確に分かっている物質を用いて正すこと。

***エネルギー補償機能:ガンマ線のエネルギーを考慮して線量を表示する機能。

Q.ホールボディ・カウンタを使うと、何がわかるのですか?

A.体内に取り込まれた放射性核種のうち、ガンマ線を放出する核種について、種類と放射能量がわかり、そのデータから内部被ばく線量を推計することが出来ます。

体内に取り込まれた放射性核種のうち、セシウム137やヨウ素131などのガンマ線を放出する核種について、測定した時点での体内に存在する放射性核種の種類がどんなもので量がどれくらいかわかります。また、測定データから、内部被ばく線量を推計することが出来ます。ただし、ヨウ素131のように半減期が短い放射性核種は福島原発事故後の時間経過により減衰してしまった後は検出することができません。また、ストロンチウム90はガンマ線を出しませんので、ホールボディ・カウンタでは直接測ることはできません。

当所では福島県及び国からの依頼により、平成23年6月末から約180人の計画的避難地域等に在住されていた方の内部被ばく検査を行いました。半数の方が体内の放射性セシウムが検出されましたが、検出された全ての方が、それまでの被ばく線量から推計される預託線量(生涯)が1ミリシーベルト未満と推定されました。この事から、将来にわたって健康に影響のあるような被ばくがあったとは考えにくく、そのリスクはたとえあったとしても極めて小さいと考えられます。

図1 ホールボディ・カウンタ装置と測定の様子

QST放医研にあるホールボディ・カウンターの一例

Q.土壌や農林水産物等の環境試料中のプルトニウムはどのように測定するのですか?

A.試料からプルトニウムを抽出・化学分離精製後、高性能の質量分析装置を用いて、プルトニウム原子の重さごとに分けて原子数を測定します。

プルトニウムには複数の同位体があります。環境モニタリング等で測定されているのは、プルトニウム238、プルトニウム239、プルトニウム240です。これらはアルファ線を放出しますので、アルファ線スペクトロメータ(シリコン半導体検出器)で測定します。ガンマ線はほとんど出さないのでガンマ線検出装置では測定できません。

まず、測定の妨害となるウランやトリウムを分離して試料からプルトニウムだけを化学的に抽出します。土壌試料の場合は、硝酸で加熱浸出してプルトニウムを抽出した後、陰イオン交換を用いてプルトニウムを分離精製し、ステンレス板上に電着(メッキ)します。電着板から出てくるアルファ線をシリコン半導体検出器を用いて測定し、プルトニウムの量を測定します。このとき、プルトニウム239とプルトニウム240のアルファ線は、お互いのエネルギーが近いため弁別できません。このため、測定データの多くは両者の合計(プルトニウム239 + 240)で表記されています。一方、プルトニウム238は分けて測定できます。

最近では質量分析装置の一種であるICP-MSを用い、原子量から直接測定する方法が開発されていて、プルトニウム239、プルトニウム240とプルトニウム241を分離して測定できます。ただし、この方法では プルトニウム238は測定できません。なお、プルトニウムの分析では、化学操作が多いために、イールドモニターを用いて回収率を確認します。そのためこれらの分析や測定は、核燃料物質取扱い許可のある施設内において実施する必要があります。

※ 回収率補正のために添加する放射性同位体。あらかじめ数量が分っている放射性同位体(測定対象核種と元素は同じだが別の核種。例えばPu-239, 240, 241の測定ではPu-242またはPu-236が使われる)を添加し、一連の分析が済んだ後にそれを定量して添加量との比を求めることで、分析の際に回収された割合(回収率)を算出することができます。

Q.ストロンチウム90はどのように測定するのですか?

A.ストロンチウム90(半減期約29年)は分離して、イットリウム90のベータ線を測定し、ストロンチウム90濃度を計算します。

ストロンチウム90(半減期約29年)の測定ではベータ線を測定しますが、そのベータ線は弱く、また、ベータ線は連続スペクトル1)ですので、放射性核種を特定できません。そのため、まずストロンチウムを分離しておく必要があります。原発事故のようにストロンチウム90とストロンチウム89(半減期約51日)が含まれると予想される場合は以下の方法を用います。分離精製後、沈殿として取り出したストロンチウムのベータ線を測定(1回目)します。この測定値にはストロンチウム90とストロンチウム89が含まれます。

その後、沈殿を溶解します。二週間経過後2)ストロンチウム90から生成されるイットリウム90(半減期約64時間)がほぼ同量となります(これを、「放射平衡」といいます。)ので、イットリウム90を分離して測定し、ストロンチウム90を計算します。一回目の測定カウントのうち、ストロンチウム90の寄与分を差し引き、ストロンチウム89を算出します。詳細は文部科学省発行の「放射能測定シリーズNo.2 放射性ストロンチウム分析法」をご覧下さい。

このように、ストロンチウム分析は、分離精製操作などが必要であることから、分析結果が得られるまで数週間を要します。

ストロンチウム90の測定手順

放射平衡の解説図

※1) スペクトルには線スペクトルと連続スペクトルがあり、特定の波長しかないものを線スペクトル、複数の波長が連続して出てくるスペクトルを連続スペクトルといいます。ガンマ線は放射性核種に特有な線スペクトルを放出します。

※2) ストロンチウム90(Sr-90)は半減期29年でベータ線を出して崩壊し、子孫核種のイットリウム90(Y-90)になります。イットリウム90は半減期が64時間で、ベータ線を出して崩壊し安定なジルコニウムになります。親核種のストロンチウム90に比べて子孫核種のイットリウム90の半減期がとても短いので、子孫核種はできてすぐに崩壊することになります。ストロンチウム90を分離してきた段階では、子孫核種のイットリウム90は含まれていませんが、時間の経過とともに増加し、やがてストロンチウム90とイットリウム90の量がほぼ同量になり、そのままの状態が長く続きます。この状態になるまで2週間ほど待つ必要があります。また、イットリウム90のベータ線の方がエネルギーが強く測定しやすいため、イットリウム90のベータ線を測定して、ストロンチウム90の量を計算します。

Q.ストロンチウム90をすぐに測定できると聞きました。これまでの方法とどう違うのですか?

A.従来のベータ線計測法では2週間の放置期間が必要であったことに比べ、試料放置期間が必要ない質量分析装置を用いたストロンチウム90の定量法が開発され、運用されています。

従来法は、イットリウム90のベータ線を測定し、ストロンチウム90濃度を計算します。これにはストロンチウム90濃度とイットリウム90濃度が放射平衡になるまで約2週間放置する必要がありました。最近は、質量分析装置を用いてストロンチウム90を直接測定する分析法が開発されました。この方法でも、試料からストロンチウム90を分離精製して、測定試料を作成します。そして試料中の質量数90にあるストロンチウムの存在量を測定し、ストロンチウム90濃度を求めます。この方法では、2週間の放置期間がないため、迅速に測定できるメリットがあります。

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