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被ばく防護と医療 第82回 放射線 健康リスクゼロに 人・環境・社会守る技術開発

掲載日:2024年3月27日更新
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被ばく防護と医療 第82回
放射線 健康リスクゼロに 人・環境・社会守る技術開発

宇宙の誕生と共に放射線は存在している。人間ははるか昔から、宇宙や大地から放射線を受けているし、呼吸や食事により、自然界の放射性物質を体内に取り込んでいる。しかし1895年にヴィルヘルム・レントゲンがX線を発見し、医学利用を始めて以後、人間と放射線との関わりは大きく変わってきた。今では、自然界からよりも放射線検査からの被ばくの方が多い人も消してまれではない。

そもそも放射線という「線」はない。放射線とは、粒子が高速で飛ぶ粒子線とエネルギーの高い電磁波の総称である。粒子線は、粒子の種類によりα線、β線、中性子線などに分類される。電磁波は、原子のどこで発生したかによって、γ線、X線と名称が変わる。種類が違えば性質も違う。

しかし物質中を通過する際、物質を構成する原子の軌道電子をはじき出す点は共通である。そのため放射線が生物を通過すると、細胞に影響を及ぼすことがある。放射線でがん細胞を殺すがん治療や、突然変異を引き起こす品種改良は、この性質を利用している。しかし「放射線は怖い」というイメージの原因にもなっている。

2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、空気、水、土、食物に放射性物質汚染をもたらし、未来世代に大きな社会問題を残すことになった。また最近、国際社会は、原子力施設が武力攻撃の対象となることを強く認識することになった。こうした災害・事故から人と環境を守るため、過去の教訓を参考に、元素分析、線量評価、健康評価の分野で、様々な技術が開発されている。

また人間の長年の夢の実現にも、放射線防護の技術開発は不可欠である。放射線利用のトップランナーは今も医学利用であり、放射線検査やがん治療は、健康長寿社会の実現に貢献している。これを陰ながら支えているのは、患者と医療人を放射線被ばくから守る技術である。また人類の宇宙進出にも、宇宙放射線の遮蔽技術が不可欠である。そして究極の目標は、被ばくしても生涯、障害も後遺症もがんも発生しない、放射線健康リスクをゼロにする被ばく医療技術の開発にある。

被ばく防護と医療に関する一連の連載では、科学技術の進歩や社会の変化に伴い多様化している被ばくから、人と環境と社会を守る技術とその開発の最前線を紹介する。

日常生活における被ばく線量の世界平均と日本平均のグラフ

執筆者

量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門

放射線医学研究所 副所長

女性の顔

神田 玲子(かんだ・れいこ)

生物学的および社会科学的アプローチによる放射線リスクの定量化の研究に従事。理学博士

 

本記事は、日刊工業新聞 2023年2月16日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(82)被ばく防護と医療(連載記事 全9)​「放射線 健康リスクゼロに」2023年2月16日 科学技術・大学)