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放射線医学研究所

被ばく防護と医療 第86回 被ばく 発がんリスク捉える

掲載日:2024年3月27日更新
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被ばく防護と医療 第86回
被ばく 発がんリスク捉える 細胞系譜追跡で起源解明

広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査などから、被ばくによってがんの発症リスクが高まることが明らかになっている。しかし、被ばくによる発がんメカニズムはよくわかっておらず、特に低線量被ばくの場合は、生体への影響が小さく、統計学的有意差の検出のための十分な集団の確保が難しいため、発がんのリスクを正確に捉えることは現状できていない。

放射線被ばくは遺伝子を構成するDNAを傷つける。そのため被ばくによる発がんには、自然に発生するがんとは別の遺伝子異常があるのではないかと考え、実験動物に生じたがんのゲノム異常を調べてきた。量子科学技術研究開発機構からの報告も含む複数の研究から、被ばくに起因するがんに特徴的な遺伝子変異がいくつか見つかってきたが、発がんメカニズムの全貌は未だ明らかになっていない。

そこで、視点を変えて、今度は細胞に注目し、「細胞系譜追跡」という新たなアプローチで研究を進めている。

被ばくした細胞は、すべてががんになるわけではなく、一部の細胞のみが増殖を繰り返し、悪性化してがんに至ると考えられる。ただ、なぜその一部の細胞ががんの起源になるかはわかっていない。そこで、実験動物において、薬剤投与により、特定の細胞に標識を付けられるようにした遺伝子組換えマウスを用いて、被ばく後の細胞を追跡できる実験系を構築した。

この実験系では、一例として組織内の特定の細胞を赤色で標識することができる。分裂してできる子孫細胞も同じ色で標識されるため、被ばくした細胞が増殖してがんになるまでの過程を追跡することが可能である。この実験系を用いて、放射線被ばくした乳腺で一部の細胞が増え続けることが分かってきた。

本来、組織は正常な細胞で構成される。その中で、がんになる細胞はどのようにして他の細胞集団を排除して支配的になるのか。その過程を観察することで、細胞のふるまいから放射線発がんメカニズムの解明に迫りたいと考えている。

この研究から、どのような細胞のふるまいが発がんに関与するかが明らかになると、それを標的としたがん予防研究につながることが期待される。また、がん形成するきっかけとなる細胞集団のゲノム変異を捉えることで、被ばくによる発がんに必須のゲノム変異を明らかにできる可能性もある。

細胞系譜追跡実験の概要説明図

 

執筆者

量子科学技術研究開発機構

量子生命・医学部門 放射線医学研究所

放射線影響研究部 発がん動態研究グループ 研究統括

男性の顔

飯塚 大輔(いいづか・だいすけ)

放射線発がんメカニズム研究に従事。博士(獣医学)

 

本記事は、日刊工業新聞 2023年3月16日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(86)被ばく防護と医療(連載記事 全9)​被ばく 発がんリスク捉える(2023年3月16日 科学技術・大学)