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放射線医学研究所

被ばく防護と医療 第90回 被ばくしてもがんの心配のない未来へ がん予防の実現に向けて

掲載日:2024年3月27日更新
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被ばく防護と医療 第90回
カロリー制限でがん予防 被ばく後のリスク低減

放射線は、病気を見つけるためのレントゲンやコンピューター断層撮影装置(CT)検査、がんなどの病気の治療(放射線治療)などの医療分野で活用されている。先進国である日本は、その普及率は世界中でも上位であり、健康長寿社会の実現にも大きく貢献するものと期待されている。

放射線は多くのベネフィットを有している反面、がんの要因の一つとしても知られている。放射線を利用した医療機器の普及に伴う医療被ばくの増加は、被ばく後のがんを含む健康影響が国民の関心事となっている。また、放射線は、宇宙空間にも存在しており、近年の目覚ましい宇宙開発技術の進展による宇宙遊泳や月や火星への有人惑星探査が現実味を帯びたことにより宇宙放射線による健康影響も考慮する必要がある。

そのため、放射線の医学利用や宇宙開発に際しては、被ばくによる健康影響、特にがんに対する予防法の開発が重要となる。量子科学技術研究開発機構(QST)では、マウスやラットなどの実験動物を用いて放射線による発がんのリスク評価と機構解明を行うと共に、その予防研究も行っている。

これまでに、カロリー制限(炭水化物の摂取量を30%抑制した特殊飼料)が小児期マウスの被ばくにより発症する肝がんと肺がんの発生を抑え、寿命を延長させることを明らかにした。また、ヒト家族性大腸腫瘍症のモデルマウスを用いて、カロリー制限が小児期の被ばくにより発症する消化管腫瘍のサイズを抑制し、腫瘍の進展を抑えることも示した。

現在、QSTでは、カロリー制限の模倣剤として知られるぶどうやピーナッツの皮に含まれている成分のレスベラトロール、遺伝子変異が原因で作られなくなったタンパク質を作らせることのできる効果(リードスルー効果)を持つマクロライド系抗生剤、および包摂作用による脂肪呼吸抑制効果を有する食物繊維などを用いて被ばく後の発がんリスク低減化を行っている。

将来、被ばくによるがんを心配せずに放射線を利用した医療提供や宇宙への進出が可能な未来を目指し、予防研究を進めている。

カロリー制限をした場合と制限無しの場合の放射線誘発消化管腫瘍の発生割合を示したグラフ

カロリー制限による放射線誘発消化管腫瘍に対する予防効果

 

執筆者

量子科学技術研究開発機構

量子生命・医学部門 放射線医学研究所

放射線影響研究部 グループリーダー

男性の顔

森岡 孝満(もりおか・たかみつ)

天然化合物であるフィトケミカル、カロリー制限などによるがん予防研究に従事。日本がん予防学会評議員、茨城大学客員教授、医学博士。

 

本記事は、日刊工業新聞 2023年4月13日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(90)被ばく防護と医療(連載記事 全9)​カロリー制限でがん予防 被曝後のリスク低減(2023年4月13日 科学技術・大学)