「微小炎症」慢性化防ぐ
炎症とは熱、発赤、腫れ、痛み、機能障害を伴う症状を指す。急性炎症とは一過性の炎症であり、蚊に刺された時のように、放っておくといつの間にか治っているものである。一方、慢性炎症は放っておいても炎症が収束することはなく組織の機能障害が見られた時点で「病気・病態」とよばれる。
これまでの研究から慢性炎症は、関節リウマチなどの免疫疾患だけでなく、動脈硬化、認知症やうつ病などの長寿社会特有の主要な疾患の原因であることが分かってきた。これらでは、痛みなどの不快感、寝たきり、徘徊などの患者自身の生活の質(QOL)の低下のみならず、その家族への精神的・経済的負担、医療介護制度に大きな負荷を与える。従って、健康長寿社会を実現するためには慢性炎症の克服が急務である。
我々は、これまで慢性炎症の原因となる病気の芽である「微小炎症」の誘導機構を研究し、組織の細胞の炎症誘導機構「IL-6アンプ」と新規の神経―免疫連関である「ゲートウェイ反射」を発見、報告してきた。IL-6アンプが活性化した組織の細胞は「病気の芽」でありこれが拡大、慢性化することにより慢性炎症状態となる。
また、重要なことにそれぞれの病気・病態ではそれぞれ異なる細胞のIL-6アンプやそれぞれ異なる自分に反応する免疫細胞が活性化し、これらの活性化細胞からは特有の分子を細胞外に放出する。例えば、腎臓での尿細管上皮細胞からの特有のたんぱく成分などである。しかし、未病時のこれら特有の成分の検出は、これまでの技術では不可能であった。
量子科学技術研究開発機構 (QST)ではこの課題に挑戦すべく、ナノダイヤモンド(ND) 量子センサーやAIナノポアを用いた研究を実施している。具体的には、たんぱく成分などの病気の芽から産生される因子の検出物質をNDに結合させ、極めて少量の血液や尿試料からこれら因子を超高感度かつ高精度に検出する。検出できた病気の芽は、ゲートウェイ反射や迷走神経を含む神経回路の人為的な刺激で除去する。量子技術を含むこれらの技術の融合から、未病時において病気の芽を自動で摘む「未病時のオートマッティック医療」を達成する。
※本記事は2022年9月22日 日刊工業新聞26面(科学技術・大学)に掲載されました。
日刊工業新聞 量子科学技術で作る未来(63)「微小炎症」慢性化防ぐ