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放射線医学総合研究所におけるホールボディカウンタの測定方法について | 東日本大震災関連情報

掲載日:2024年3月27日更新
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平成23年8月26日(金曜日)15時50分更新
独立行政法人 放射線医学総合研究所

放射線医学総合研究所(以下、「放医研」と言います。)は、我が国で唯一の、世界でも類を見ない放射線の人体への影響を研究する研究所です。その専門的機能を活用して、我が国の被ばく医療の中心的医療機関としての役割を果たしてきています。

放医研では、内部被ばく線量の測定ならびに評価の精度を十分に確保するための研究開発用装置として、ホールボディカウンタを整備・保有しています。放医研のホールボディカウンタを今般の東京電力福島第一原子力発電所災害への対応において活用するにあたり、専門的な観点から以下の様々な点に留意しつつ運用しています。

図1: ホールボディカウンタでの測定の様子

図1:ホールボディカウンタでの測定の様子
(ベッドの下に4つ見えるものがNaI(Tl)シンチレーション検出器)

1.機器の測定効率の校正

ホールボディカウンタは、体内に存在する放射性物質から放出されるガンマ(γ)線を、体外に設置した検出器を用いて計測するものです。全身の体内から放出された放射線を検出できるよう、全身を見込む範囲に検出器が配置されています。(図1)

ホールボディカウンタで計測された放射線の数(cps:カウント毎秒)がどのくらいの体内の放射性物質の量(Bq:ベクレル)に相当するかを知るためには、cpsからBqへの換算係数をあらかじめ測定しておく必要があります。これを測定効率の「校正」と言いますが、我が国にはホールボディカウンタの校正等についての規格はまだありませんので、放医研では以下の点に留意した校正を行っています。

(1)標準ファントムの使用

測定効率の校正においては、ファントムと呼ばれる人体の形状に似た「標準体積線源」を用います。これは、ホールボディカウンタによる体内から放出される放射線の測定が、放射性物質の分布状態に大きく影響されるためです。

放医研では、米国規格(ANSI N13.35)に規定されている標準ファントム(BOMABファントム)を作成し、我が国で唯一保有しています(図2)。このBOMABファントム内部に封入されている放射性物質の量は、我が国の国家標準とトレーサビリティを有しています。

この標準ファントムによる校正は、測定の間隔が開いた時等、測定精度に影響があり得る場合には必ず、また、できれば定期的(たとえば3年程度ごと)に実施することが適切です。

図2: BOMABファントム

図2:BOMABファントム

(2)放射線エネルギーの校正

どのような放射性物質が体内に取り込まれているかを知るためには、γ線のエネルギー分析を行います。放医研では、エネルギーの分析範囲を通常100keV~2000keVとしており、この範囲で測定された光電ピークのエネルギーから放射性物質の種類(核種)を求めています。γ線のエネルギー分析に用いる装置はマルチチャンネルアナライザーと呼ばれますが、この装置のチャンネル番号とγ線エネルギーの関係を決めることをエネルギー校正と言います。エネルギー校正は既知の3~4核種から成るエネルギー標準線源を用いて行います。このエネルギー校正の結果は、検出器にかかる電圧や周辺の温度の変化など微妙な測定条件の違いにより変化します。例えば、天然放射性元素の40K(カリウム)が放出する1461keVのγ線の光電ピークを、本来存在しない60Co(コバルト)の1333keVのγ線のものと取り違えてしまうような誤りも起こりえます。また、134Cs(セシウム)は主なものだけでも6つのエネルギーのγ線を放出しますが、エネルギー校正が正しく行われていないと134Csであると判定することはとてもできません。

そのため、放医研では常時計測システムに通電しておくのみならず、室温を一定に制御した上で、毎回、人の測定前にバックグラウンド(環境中に存在する放射線)のスペクトルを取り、測定される40K等による光電ピークのエネルギーが正しく示されているか確認をしています。

また、cpsからBqへの換算係数は、放射線のエネルギーによって異なります。つまり、放射性物質の種類が異なれば、換算係数も異なることになります。この換算係数の補正にあたってもエネルギー校正は重要となります。

2.バックグラウンド補正

体内に存在する放射性物質の正味の量を正確に測定するためには、バックグラウンドを差し引く必要があります。

実際に人体を測定した値からこのバックグラウンドの測定値を引いた正味値が真の体内から放出された放射線の数となります。バックグラウンドは、場所の違いや時間の経過に伴い変化しますので、放医研では人の測定前後に必ずバックグラウンド計測を行っています。なお、測定が長時間に及ぶ場合には、中間時にも計測を行うことが適切です。

3.内部被ばく線量の評価

ホールボディカウンタは、測定時に体内に存在する放射能量を測定する機器であり、体内の放射能量(Bq)が分かったとしても、内部被ばく線量(Sv)がすぐに求められる訳ではありません。測定した放射線は、まさに測定時点に体内にある放射性物質からの放射線であり、線量を求めるためには、いつどのような形で放射性物質を体内に取り込んだかの評価が不可欠です。つまりホールボディカウンタによる内部被ばく線量の評価は、測定した時点までに、どのくらいの量の放射性物質が、どのくらい長く体内に存在したのかを推定することから始まります。現在の量が同じであっても、何日か前に1度だけ取り込んだのか、毎日少しずつ取り込んできたのかによって内部被ばく線量は異なります。また、空気と一緒に吸い込んだのか、食べ物から食べたのかによっても線量は異なります。このため、測定される方の行動を聞き取り、どの時点で放射性物質を取り込んだのかを把握し、線量評価に役立てています。

さらに、大人と子供では代謝の速さが違いますので、同じ量の放射性物質を取り込んだとしても子供の方が速く体内量は少なくなります(生物学的半減期が短いという言い方をします)。一方で、子供の方が臓器の大きさが小さいので、同じ量を取り込めば、線量は大きくなります。これらの年齢依存性を考慮して、子供については3ヵ月児、1歳児、5歳児、10歳児、15歳児と年齢区分ごとに成人とは別の線量換算係数が用意されています。

内部被ばくでは、体内に放射性物質が存在する間、被ばくを受け続けることになります。しかし、例えば摂取があってから6カ月目の線量はいくらかといったような、そのときどきの線量を評価することはせず、職業被ばく及び公衆の成人では摂取したときから50年間、子供及び乳幼児に対しては70歳までに受けることになる線量をまとめて摂取した年に受けたものとして評価します。こうした考え方で評価される線量を預託線量と言い、各々の臓器の等価線量を評価した場合は預託等価線量、実効線量を評価した場合は預託実効線量と言います。

放医研では、国際放射線防護委員会(ICRP)の各モデルに準じて放医研が開発した線量計算ソフトウェア(MONDAL3)を用いて内部被ばく線量を評価しています。MONDAL3は、吸入、経口摂取といった体内取り込みの形式に応じた上記の年齢区分ごとに内部被ばく線量が計算できます。

以上、説明しました通り、ホールボディカウンタを用いた内部被ばく線量評価は、特殊な装置や機材と高度の専門的知識をベースに置いた周到な準備を行った上で、複雑で手間のかかる評価手順を踏んではじめて行えるものです。
またホールボディカウンタは、健康上の支障を生じ得るような放射性物質の取り込みの有無を確認するスクリーニング目的に使用する場合があります。この体内の放射性物質の量(Bq)の測定に留める場合においても、上記の1.校正と2.バックグラウンド補正は必要不可欠な手順となります。
放医研では、東京電力福島第一原子力発電所災害の対応にあたり、放射性物質の量(Bq)にとどまらず、健康影響という観点から内部被ばく線量(預託線量;Sv)を評価していますが、これらを踏まえ、細心の注意を払いつつ対応していきたいと考えています。