国立研究開発法人
量子科学技術研究開発機構
六ヶ所フュージョンエネルギー研究所
所長 東島 智
六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(六ヶ所研)は、QST(量子科学技術研究開発機構)における中核研究所の一つとして、核融合反応で発生するエネルギー、フュージョンエネルギーにより電力を生み出す発電システムの研究開発を行っています。核融合反応は、太陽などの恒星が光り輝く源です。この反応を地上で実現することで発生するフュージョンエネルギーは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出せず、容易に反応を止められるため安全性に優れており、燃料資源が枯渇することがない等の特長を有しており、人類の未来を切り拓くエネルギー源といえます。
ここ青森県六ヶ所村では、平成21年(2009年)より、フュージョンエネルギーの早期実現に貢献する日欧協力活動「核融合エネルギー研究分野における幅広いアプローチ(BA)活動」を実施してきました。BA活動では、日本、欧州、アメリカ、ロシア、韓国、中国、インドが共同で、50万キロワットのフュージョンエネルギーの発生を世界で初めて実証する「核融合実験炉イーター(ITER)」を建設する大型国際共同プロジェクト「イーター計画」を支援するとともに、イーター計画の次の段階としてフュージョンエネルギーによる発電を初めて実証する「核融合原型炉」の早期実現に向けてイーター計画を補完する研究開発を推進しています。
BA活動には3つの事業があり、このうちの2つ、国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業と国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計(IFMIF/EVEDA)事業を、ここ六ヶ所研で進めています。IFERC事業では、原型炉の設計・研究開発、南フランスに建設中のイーターとの遠隔実験設備の構築や最新鋭のスーパーコンピューターを用いたプラズマ挙動等の研究を実施しています。IFMIF/EVEDA事業では、核融合炉材料の中性子照射影響を検証するため、核融合反応で発生する高エネルギーの中性子を模擬する加速器型中性子源の開発を行っています。
また、六ヶ所研では、フュージョンエネルギーを熱として取り出すとともに、燃料を製造する「ブランケット」の開発を推進しています。六ヶ所研で開発したブランケット試験体はイーターに取り付けて性能実証を行いますが、その取付け前に確認すべき安全実証試験を進めています。さらに、産学連携のオールジャパン体制で日本の原型炉(JA DEMO)を設計するとともに、燃料製造に必要なリチウムを海水から回収する技術やベリリウムを二酸化炭素の排出を抑制して精製する技術などフュージョンエネルギー以外の分野にも応用できる技術を開発してきました。2023年には、これらの技術を早期に社会実装することを目指し、六ヶ所研発の2つのベンチャー企業が誕生しました。
昨今、カーボンニュートラルへの貢献を目指し、世界的なフュージョンエネルギーの産業化、サプライチェーン構築の取組みが加速しています。我が国でも、2024年6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略2024」では「世界に先駆けた2030年代の発電実証の達成に向けて、…、フュージョンエネルギーの早期実現を目指す。」とされるとともに、2023年4月に策定された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」の改訂が予定されています。この流れを受けて六ヶ所研でも、2030年代の発電実証を可能とするよう、JA DEMOからイーターサイズの原型炉への設計の見直しに取り組んでいます。加えて、このように原型炉が現実味を帯びてくる中、フュージョンエネルギーの理解増進にもさらに精力的に取り組みます。
六ヶ所研は、フュージョンエネルギーの早期実現を目指して、もう一つの中核研究所である茨城県の那珂フュージョン科学技術研究所とともに、大学等や産業界と連携したフュージョンテクノロジー・イノベーション拠点として取り組みつつ、将来に向かって引き続きフュージョンエネルギーの国際的総合研究開発拠点としての役割を果たしてまいります。
今後とも、皆様のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。