JT-60電子サイクロトロン加熱装置、5kHzパワー変調入射に成功(平成20年6月26日)
JT-60Uでは、定常化研究に向けた技術開発として、電子サイクロトロン加熱装置(図1:JT-60U電子サイクロトロン加熱装置のジャイロトロン4基)の出力の高パワー化・長時間化に加え、新古典テアリング不安定性(NTM)を効率的に制御するための出力パワー変調の高周波数化に取り組んできました。今回、MW級の電子サイクロトロン波のパワーをITERで必要になると考えられている5kHzという高い周波数で変調して入射することに成功しました。今回の変調はアノード変調方式によるもので、この方式で成功したのは世界で初めてです。
NTMを抑制する手法として、電子サイクロトロン波による電流駆動を磁気島の回転に合わせて行うことが効果的であると考えられており、そのためには電子サイクロトロン波のパワーを高い周波数で変調する必要があります。JT-60UにおけるNTM抑制実験にはITERの想定と同程度の約5kHzの変調が求められていました。そこで、3極管型電子銃を持つJT-60ジャイロトロンの特徴を活かし、アノード電位の変調によるパワー変調技術開発を行い、約0.8MWのパワーで目標を上回る7kHzまでの変調出力を得ることができ、5kHzでプラズマに入射することに成功しました。本手法は、大電流・高電圧を安定して供給することが必要になる特高圧電源で変調する手法と比較し、簡易な回路で実現できるという特長をもっています。
昨年までにジャイロトロン単体では約3kHzまでの変調に成功していましたが、今回アノード制御基板の応答速度を制限していたフォトダイオードを電界効果トランジスタ(FET)に置き換えて回路を再構成することにより、アノード電圧の減少方向への変化を速くすることに成功しました(図2:パワー変調の高周波数化を目的とした高電圧回路の改造)。これによりパワー(RF出力)波形の立下がりが急峻になり、切れのよい変調が可能になりました。また、アノード分圧器コンデンサ容量や特高同軸ケーブル抵抗値等の回路定数を注意深く調整することにより、アノード及びボディ電極の充放電電流を小さくすることができました。その結果、これまでと同じ定格電流のもとでもアノード電圧の可変範囲を広くすることが可能となり、変調運転のための適切な発振条件を得やすくなりました。
さらに、NTMの回転に同期してパワーを変調するため、磁場揺動信号を参照して変調周波数や位相を制御する回路を新たに開発しました(図3:NTM揺動への同期に必要な変調制御回路を開発)。パワーのON/OFF時間比を50%にするためにはアノード電圧の高/低の時間比をジャイロトロン発振の特性に応じた(50%とは限らない)適切な値にする必要があります。そこで1サイクルの磁場揺動信号に対して1サイクルのアノード電圧制御パルスを任意波形生成器で発生させる仕組みとしました。同期には位相差の調整が必要ですからパルス生成時に遅延時間を設け、計測した磁場揺動信号の周波数と設定した位相差をもとにアノード電圧が高の時間(1)、低の時間(2)、遅延時間(3)を実時間で自動的に制御するようにしました。これにより、加熱条件などの変化によりNTMの回転周波数が時間的に変動した場合でもそれに追従してパワーのON/OFF時間を最適化することができるようになりました。これらの改良・開発により、NTMによる5kHz程度の磁場揺動に同期するように位相を制御した電子サイクロトロン波を1秒間入射することに成功しました。この間、磁場揺動強度が減少することが観測され、本変調手法の有効性を実証することができました(図4:NTMの揺動に同期した4~5kHzでのパワー変調入社に成功)。
図5(下図、パワー変調の高周波数化開発の進展とJT-60実験への適用の図)パワー変調技術の開発における変調周波数の変遷を示しましたが、今回改良したアノード分圧基板は単体で10kHz程度までの変調が可能であり、今後の調整によりさらに高い周波数でのパワー変調が得られる可能性があります。また、電子サイクロトロン波の入射時間は、今後の発振調整や放射器の改良によりさらに伸張できると期待できます。