JT-60の負イオン中性粒子ビーム入射装置で高パワー・長パルス運転に成功
− ITERの加熱電流駆動装置の開発に大きな貢献 −
平成14年5月16日
日本原子力研究所
日本原子力研究所(理事長 村上健一)は、臨界プラズマ試験装置(JT-60)において負イオン中性粒子ビーム入射装置の飛躍的な性能向上を図り、 このたび、高エネルギー(36万電子ボルト)かつ高パワー(2600キロワット)の中性粒子ビームを、従来の2倍にあたる10秒間にわたり連続してプラズマ中に入射することに成功した。
将来のトカマク型核融合炉においては、プラズマを加熱したり、連続運転に不可欠なプラズマ電流を発生させるために、高エネルギーの中性粒子ビームをプラズマ中に入射する必要がある。負イオンは、高いエネルギーに加速されても中性粒子に変換される割合が従来の正イオンに比べて格段に高いことから、負イオンを用いた中性粒子ビーム入射装置の開発が不可欠である。特に、高いエネルギーにおけるビームの収束性を改善し、プラズマ中へ連続的に入射する時間を伸ばすことが、同装置の性能向上の大きな課題であった。
JT-60では、負イオン中性粒子ビームが引出し電極の詳細構造に起因して予想以上に広がっていることを突き止めた。このため、負イオンビームを発生するイオン源について、ビームの軌道を細かく調整する技術を新たに導入し、ビームの収束性能を従来に比べ20%改善することに成功した。この結果、ビームが入射窓でさえぎられることなくプラズマ中に入射でき、入射窓部の温度上昇が抑えられ、ビーム入射時間は同装置の設計で定められた最大入射時間幅の10秒間を達成した。これは、これまでに同装置で得られた連続入射の時間幅を2倍に伸ばすとともに、全プラズマ電流の約7%にあたるプラズマ電流を発生させ続けたことに相当する。このような長パルスの運転が実現した結果、負イオン源を含む主要機器が8秒程度で熱的に定常状態となることを確認し、負イオン中性粒子ビームの連続入射への技術的見通しを得た。
負イオン中性粒子ビーム入射装置は、国際熱核融合炉実験炉(ITER)の設計に採用されていることから、今回の成果により、連続運転に対する同装置の技術的な実現可能性をいっそう確実なものにすることができた。さらに、本装置の技術は高効率太陽電池や次世代集積回路用の大型単結晶シリコン基板の大量生産技術への応用が期待できる。