環境省「放射線の健康影響に係る研究調査事業」の実施について
放射線影響予防研究部では、環境省「放射線の健康影響に係る研究調査事業」の実施にたずさわっています。当研究部で行っている研究課題の目的や成果について、説明します。 なお、放射線の単位の詳細についてはこちらをご覧下さい。
研究課題名:放射線の次世代影響及び生殖影響の感受性に関する研究
(主任研究者:今岡 達彦、採択年度:令和7年度~令和9年度)

研究の必要性
科学的には、放射線の影響によるヒトの次世代の遺伝的疾患は確認されていません。しかしながら、環境省の調査では、福島第一原子力発電所事故の被災地における次世代以降の人、すなわち将来生まれてくる子や孫などへの放射線による健康影響について、「可能性は高い」又は「可能性は非常に高い」と回答した人が一定割合みられています(環境省「ぐぐるプロジェクトについて」)。放射線健康影響研究では、大きな集団を対象とした疫学研究などにより、集団としての平均的なリスクが評価されてきました。一方、「平均的には影響が認められないとしても、自分や家族は例外ではないか」という不安に答えるためには、個人差や遺伝的背景の違いが放射線影響にどう関わるかを明らかにする必要があります。放射線はDNA二重鎖切断という損傷を生じることがあり、その修復に関わる遺伝子の一つにBRCA1があります。このようなDNA修復遺伝子に変異がある場合、放射線による生殖機能への影響や次世代に伝わる突然変異の生じ方が変わる可能性がありますが、科学的知見はまだ十分ではありません。
これまでの研究成果
当研究部では、放射線による乳がんリスクやその個人差に関する研究を進めてきました。前研究課題では、低線量率放射線による発がんリスクを予測するための数理モデルの構築などの放射線影響に関する基礎研究を行いました。一方、研究代表者らは、ヒトのBRCA1欠損を模したBrca1変異ラットを独自に開発し、このラットが放射線誘発乳がんに対する感受性を示す新しい動物モデルであることを報告しました(詳しくはこちら)。また、このモデルを用いて、Brca1変異が放射線による乳がんリスクをどのように修飾するかを調べ、放射線影響の個人差を動物モデルで研究する基盤を整えてきました。本研究では、この知見を次世代影響及び生殖影響における遺伝的感受性の解明へと発展させます。
本研究の目的
本研究課題では、Brca1変異ラットなどを用いて、放射線の次世代影響及び生殖影響に、遺伝的感受性の違いがどのように関与するかを明らかにします。これにより、「平均的な集団」だけでなく、遺伝的背景の違いを考慮した科学的知見を得ることをめざします。
研究の内容
(次世代への影響の解明)
Brca1変異ラット及び野生型ラットに放射線を照射し、照射を受けていない異性のラットと交配します。出産率、産子数、次世代の性比、外見的異常などを評価するとともに、放射線を受けた親、その交配相手、生まれた子のDNAを用いて全ゲノム解析を行い、新規突然変異の頻度や特徴を調べます。
(生殖機能への影響の解明)
高線量率または低線量率の放射線を照射したBrca1変異ラット及び野生型ラットについて、卵巣の卵胞形成、精巣の精子形成、雌の発情周期を解析し、Brca1変異が放射線による生殖腺への影響を修飾するかを調べます。
(知見収集と総説論文の作成)
放射線の次世代影響及び生殖影響を修飾する遺伝的感受性因子について、医学系文献データベースなどを用いて研究を幅広く収集し、リスクコミュニケーションにも活用できる総説論文を作成します。
期待される成果
- Brca1変異が、放射線による次世代影響及び生殖機能への影響をどのように修飾するかを明らかにし、遺伝的背景の違いを考慮した放射線リスク評価の高度化に資する科学的知見を得ます。
- 関連する遺伝的感受性因子の知見を整理し、「統一的な基礎資料」の充実やリスクコミュニケーションに活用できる科学的根拠を提供します。
研究課題名:放射線被ばくによる発がん影響の高感度検出技術の開発
(主任研究者:臺野 和広、採択年度:令和8年度~)

研究の背景
東京電力福島第一原子力発電所事故により懸念が高まった、低線量の放射線被ばく(100ミリシーベルト以下)による発がんリスクは、食事や喫煙などの生活習慣によるリスクと比べて極めて小さいとされています。さらに、自然発症のがんと被ばくに起因するがんを区別することができないため、疫学的手法による正確な評価は困難です。その結果、低線量の放射線被ばくによる健康影響(発がん)の有無を明確にできない現状が、不安を増大させていると考えられます。
本研究の目的
動物モデルに生じた腫瘍や前がん病変、血液試料を用いて、被ばくに起因する腫瘍のバイオマーカーを探索します。また、同定したバイオマーカーについてヒトとの類似性を確認します。さらに、ヒトへの応用を見据え、血液等から放射線被ばくによる発がんを高感度に検出するバイオマーカーの開発を目指します。
期待される成果
- 放射線による発がん機序の解明が進むとともに、発がん初期の生体試料を対象として放射線被ばくによる発がん影響を高感度に検出することが可能になると期待されます。
- 低線量・低線量率の放射線被ばくによる健康影響に関する科学的知見や検出技術に関する情報を提供することで、健康不安の解消に役立つことが期待されます。






